今回はプロジェクトのコストと進捗管理の手段としてよく知られているアーンドバリューマネジメント(Earned Value Management:EVM)を取り上げてみます。
プロジェクトの全ての作業を金銭的な価値に換算し、計画・出来高・実コストを比較することによって、プロジェクトのコストと進捗を管理する手段
EVMはプロジェクトの管理手法としてよく知られていますが、登場する用語が多いため、それらの意味を1つ1つ理解していきましょう。
EVMで使われる用語を理解しよう
ここではEVMで使われる重要な用語を1つずつ解説していきたいと思います。
今回は始めにまとめを載せておくので、よく分からない用語は後に続く解説を参照してみて下さい。
用語 | 定義 |
---|---|
BAC (Budget at Completion) | プロジェクトに割り当てられた全予算 |
PV (Planned Value) | 予定している作業が生み出す価値(金額) |
EV (Earned Value) | 実際に行なった作業が生み出した価値(金額) |
AC (Actual Cost) | 実際に費やした費用 |
用語 | 定義(数式) | 意味・考え方 |
---|---|---|
SV | $EV – PV$ | 負の値であればプロジェクト遅延 |
CV | $EV – AC$ | 負の値であればコスト超過 |
SPI | $EV/PV$ | 1より小さいとプロジェクト遅延 |
CPI | $EV/AC$ | 1より小さいとコスト超過 |
EAC | $AC + (BAC – EV)/CPI$ | プロジェクト完了時の総コスト見積もり |
BAC (Budget at Completion)
これは一言で言えばプロジェクトに割り当てられた全予算のことです。
プロジェクト終了時点で実際に費やしたコストがBACを下回っていれば、コスト面では良好と言えます。1000万円の予算のプロジェクトを900万円の費用で完了したような場合ですね。
一方で、プロジェクト終了時点で実際に費やしたコストがBACを上回っていれば、コスト超過です。先ほどとは逆で、1000万円の予算のプロジェクトを1100万円の費用で完了したような場合です。
PV (Planned Value)
これは予定している作業が生み出す金額(価値)のことです。
少し分かりづらいので、具体例を考えましょう。
例えば、100万円の価値の作業を10日間連続で行ない、1000万円の価値を生み出すプロジェクトがあるとします。この場合、初日が終了した時点でのPVは100万円です。なぜなら、予定では1日目の100万円分の作業が完了しているはずだからです。同様に考えれば、2日目終了時点は200万円、3日目終了時点は300万円・・・のように考えることができます。
EV (Earned Value)
これは実際に行なった作業が生み出した金額(価値)のことです。
PVの時の例をもう1度見てみましょう。
これは毎日100万円相当の作業をする計画ですが、仮に3日目はトラブルで50万円相当の作業しかできなかったとします。その場合に、3日目終了時点でPVは300万円ですが、実際に生み出すことができた価値であるEVは250万円です。
ここから分かるように、EVがPVを上回っていれば順調、下回っていれば不調ということになります。
AC (Actual Cost)
これは作業をする中で実際に費やした費用のことです。
例えば、10万円の製品を10日間連続で作って100万円の価値を生み出すとします。この時、1つの製品を作るのにかかる費用(部品代や人件費など)も10万円であるとします。最初の4日間は順調に1日1個ずつ作っていましたが、5日目はトラブルが発生したため、何とか製品は作ったものの、部品や作業時間が余分に費やされてコストが15万円かかってしまったとしましょう。
この場合は5日目終了時点のPVとEVは50万円です。では、ACはというと、実際に費やした費用なので55万円になります。
ここから分かるように、ACがPVやEVより大きいということは、予定や出来高よりコストが大きいことを意味するので、プロジェクトがうまくいっていないことになります。逆に、ACがPVやEVより小さければ、コストが予定や出来高より小さいということを意味するので、プロジェクトが順調であるといえます。
SV (Schedule Variance)
$SV = EV – PV$です。
EVからPVを引くということは、実際の出来高と予定を比較していることになります。
従って、SVが正であれば、実際の出来高の方が予定より大きい、すなわちプロジェクトが順調であると言えます。一方で、SVが負であれば、実際の出来高の方が予定より小さい、すなわちプロジェクトが不調であると言えます。
CV (Cost Variance)
$CV = EV – AC$です。
EVからACを引くということは、実際の出来高と実際のコストを比較していることになります。
従って、CVが正であれば、実際の出来高の方が実際のコストより大きい、すなわち良好なコスト状態であると言えます。一方、CVが負であれば、実際の出来高の方が実際のコストより小さい、すなわちコスト超過であると言えます。
SPI (Schedule Performance Index)
$SPI = EV / PV$です。
これもEVとPVの比較という意味ではSVと同じですが、差ではなく比になっているのが違いです。
SPIが1より大きければ、実際の出来高の方が予定より大きい、すなわちプロジェクトが順調であると言えます。一方で、SPIが1より小さければ、実際の出来高の方が予定より小さい、すなわちプロジェクトが不調であると言えます。
CPI (Cost Performance Index)
$CPI = EV / AC$です。
これもEVとACの比較という意味ではCVと同じですが、差ではなく比になっているのが違いです。
CPIが1より大きければ、実際の出来高の方が実際のコストより大きい、すなわち良好なコスト状態であると言えます。一方で、CPIが1より小さければ、実際の出来高の方が実際のコストより小さい、すなわちコスト超過であると言えます。
EAC (Estimate at Completion)
これはプロジェクト完了時の全コストの見積もりです。
数式では$EAC = AC + (BAC-EV)/CPI$と表されます。
少し数式が複雑なので順番に見ていきましょう。
まず、第1項のACはこれまでのコストの実績値ですね。第1項がこれまでのことを表しているので、第2項が今後の予測を表す数式です。
$BAC-EV$は今後生み出される価値を表しています。
BACはプロジェクト完了時の総予算で、EVはこれまでの出来高でした。
なので、例えばBACが1000万円のプロジェクトにおいて、現時点のEVが600万円であれば、残りの期間であと400万円分の価値を生み出すことになります。
これが$BAC-EV$です。
$BAC-EV$の値(例えば400万円)が分かった場合に、その価値を生み出すためにかかるであろうコストを計算します。仮にこれまでのCPIが1であれば、計画通りに価値を生み出してきたことになりますから、400万円の価値を生み出すのにかかる費用は400万円でしょう。
仮にCPIが1より小さければコスト超過状態ということになるので、400万円の価値を生み出すのにかかる費用は400万円より大きくなってしまいますし、CPIが1より大きければ、逆に400万円より小さくなるでしょう。
このことを考慮するために$BAC-EV$をCPIで割っているわけです。CPIが1なら$BAC-EV$の値がそのまま将来のコスト予測になります。CPIが1より大きければ(=コスト状態が良好)、それを反映して$BAC-EV$より小さいコスト見積もりになります。一方、CPIが1より大きければ(=コスト超過状態)、それを反映して$BAC-EV$より大きいコスト見積もりになります。
EVMをグラフで表現してみよう
EVMをグラフ(縦軸:コスト 横軸:時間)で表現すると次のようになります。
このグラフはACがEVより大きいためコスト超過状態、またPVがEVより大きいためスケジュールが遅延していることが分かります。