今回は、AI関連のSF小説を読んでみたいなと思って購入した『タイタン』野崎まど(著)を読み終えたので、その読後感想を書いてみたいと思います。
もちろんネタバレは含まないように書いていきますので、これから読まれる方の参考になれば幸いです!!
あらすじ
時は2205年。この時代ではすでにAI技術が確立されており、「タイタン」というAIが人間の代わりに何でもやってくれる世界です。
人間の作業はほとんどタイタンによって置き換えられてしまったため、もはや「仕事」というものが過去の概念となっています。我々が電車が普及する前の汽車の写真などを見て、「昔はこんなものが走っていたんだ」と思うのと同じようなノリで、「昔は”職場”というものがあったんだよ」みたいな会話が繰り広げられています。
そんな世界での物語の主人公は内匠成果(ないしょうせいか)という女性の心理学博士。と言っても、彼女も働いたことはないので、心理学はあくまで趣味です。
そんな内匠にひょんなきっかけから声をかけてきたのは第2知能拠点のナレインという横柄な態度の男(この時代では希少な就労者)。第2知能拠点というのは世界に12種類存在するタイタンの本体がある拠点の1つです。
ナレインは内匠に「仕事」を依頼します。
その仕事とは、第2知能拠点のタイタン(名前はコイオス)が患っている機能低下の原因を特定すること。最初にも書いたように、この世界はタイタンで成り立っているため、その機能低下は大変深刻な問題なのです。
「なんで私がそんな仕事を?」と言わんばかりの内匠に対してナレインは続けます。
「コイオスの一部を人格化して取り出す。お前の仕事はコイオスとの対話を通して機能低下の原因を聞き取ること、つまりAIのカウンセリングだ。」
内匠はとまどいながらも、子どものようなAIのコイオスとの対話を通じて、機能低下の原因を探っていきます・・・。
個人的な感想
AIというとテクノロジーの塊みたいなイメージがありますが、そんなAIに対してカウンセリングを行なうという切り口が斬新だなと思って手に取りました。(もともとはもっとテクノロジー寄りの小説を読もうかなと思っていたんですが・・・)
個人的に面白かったなと思ったのは以下の3点です。
①カウンセリングだけで終わらない展開
AIに対するカウンセリングというテーマなので、内匠がコイオスに語りかける過程で徐々にコイオスが心を開いていくような流れかなと思っていましたが、思ったよりもぶっとんだ展開でした。内匠とコイオスの対話も面白いですが、対話だけで終わらず、動きのある展開だったので、読んでいて飽きることはありませんでした。
②「仕事とは何か」という壮大なテーマ
コイオスは始めのうちは本当に子どものようですが、内匠と打ち解けていくうちに2人で仕事について語り合う場面が増えていきます。時には、物理学における「仕事」の定義を持ち出すような場面も・・・。我々現代人は仕事が当たり前に日常の中にあるため、「仕事って何だろう?」と考える機会はほぼないので、AIであるコイオスや働いたことが無い内匠の視点で仕事を論ずるのは何だか新鮮な感じがしました。
③内匠とナレインの対極性
合理的に理詰めで物事を考えるナレインとAIの心に語りかける内匠は考え方が水と油です。何かトラブルが起こった時の2人の対応は常に異なるので、意見がぶつかる場面が多々あります。個人的には、ナレインの考え方に共感するところが多かったですが、内匠の気持ちも分かる分かるといった感じで読んでいました(念のために言っておくと、2人がちゃんと協力する場面もあります)。互いのキャラクターがちゃんと立っているというのも面白かった要因ですね。
こんな人におススメ
- 「仕事とは何か?」について考えてみたい人
- AIの心の葛藤を見てみたい人
- AI技術が確立された世界の世界観を体験したい人